赤尾晃一の知的排泄物処理場(わかば日記)

静岡大学情報学部教員によるメディア観察ブログ。基本的に敬称略。SINCE 1996.3.20

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プロフィール

赤尾晃一

静岡大学

情報学部准教授

赤尾晃一

トゥース!! 写真は高校の卒業アルバムから。
1958年,滋賀県生まれ。同志社大学文学研究科修士課程新聞学専攻修了(メディア論・大衆文化論)。通信関係シンクタンク・日経BP社を経て,1995年10月から現職。主共著に『現代風俗史年表』『情報通信革命』『通信・放送新時代の制度デザイン』『商品化権』『ゲームの大學』『近未来・映像メディア』など。
 ついに50歳の大台。滋賀県に25年,東京都と浜松市に12年半ずつ居住。魚座なので,近くに「水溜まり」がないと落ち着かないらしい。
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2009年10月11日(日)

増田美智子の「生硬さ」 [ノンフィクション書]

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増田美智子『福田君を殺して何になる』(インシデンツ)の版元直販が届いたので読む。福田被告の詳細な面会記録から,彼の多面的な人間性が読み手に伝わってくるため,実名使用は辛うじて正当化しうると思う。被害者遺族の手記ではOKで,フリーライターがNGというわけでもないだろう。

ただし,増田美智子には「正当な訓練を受けない無手勝流ライター」としての無鉄砲さと生硬さがある。「取材相手の気持ちを慮る」「被取材者と謙虚に向き合う」という最低限のルールが守れていない印象が残る。「取材を受けるのが当然だ」とでも考える傲慢さ。例えば,事件に関係がない自宅の抵当権設定の件を福田の父親に不用意にぶつけたため,以降の取材を拒否される。また,「不謹慎な手紙」をやりとりしたA少年に「検察官に唆されたのではないか」と手紙に書いてしまい動揺させている。

そして,増田美智子が光市事件に首を突っ込む動機がいかにも不鮮明だ。広島テレビの女性記者が「女性であることを武器に」福田被告に近づき,単独面会に成功した事例(*)と同じ構造なのではないかという疑念さえ抱かせる。増田は本村洋と話をして,本村から動機の不純さを指摘され,「本村さんの言葉の1つひとつが,正鵠を射抜いていて,私は返す言葉を失っていた」(p.224)と記す。これは敗北宣言ではないか? 「福田くんが死刑になることで,何か1つでも,社会にとって得るものがあってほしいと書いた。しかし,その『得るもの』が,私はいまだに見つけられずにいる」(p.226)という結語も,ノンフィクションとして失格だろう。予断はいけないが,仮説を持って取材しない限り,現実の過酷さに翻弄され,立ち位置さえ見失うのが取材の怖さである。

しかし,そうした旧来のノンフィクションの方法論を越えて,取材相手との一問一答を可能な限り生のまま提示することにより,受け手に解釈を委ねるという立場からすれば,一定の成果を上げていると評価もできる。ネット時代には,そういう方法論こそが受け手に好まれそうだからだ。

福田被告や弁護団・関係者がこの本により,羹に懲りて膾を吹くがごとく,「得るもの」を一つでも解明してくれそうな書き手の取材を拒否することにならないことを祈るだけである。福田孝行という“素材”が,解明するに足る存在であるとを知らしめたことは,本書の大きな功績にする必要がある。

付言すると,増田“みっちゃん”美智子は「死刑廃止」のイデオロギーのために有名事件の被告を利用したわけではない。立場は「死刑存置」だろう。死刑を執行する中で,社会が得るべき「教訓」を探すのが取材意図だ。しかし,それは「初めての事件(裁判)取材」で解明するには重すぎるテーマだったのだろう。

*― 差し戻し控訴審の弁護団は,広島テレビ(NNN系列)の会見への出席を拒否する事態になった。

Posted at 23時29分  トラックバック ( 0 )  コメント ( 5 )

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コメント

死刑が良いのか悪いのかではなく、意味の有無でもなく、自らが犯した罪を償う刑罰として死刑があることを増田美智子氏は勘違いしています。あまりにも残忍で償う方法が死刑しかないでしょう。被害者の人権はどうなるのでしょうか。本当は死刑でも罪は償えないと思います。せめて一日でも早く死刑になり執行される事を祈ります。

2009年10月12日 17時19分 [削除]

「実名暴露」で売った本なのに、実名暴露がその本でのテーマにとって「辛うじてセーフ」くらいの意味しかないというのは・・・そもそもやった意味がないです。しかも関係のどのサイドからも抗議が来るというのは、結局誰のためにもなっていないということ。では誰のため?と考えると・・・結局は自分のためなんでしょうね。「動機が不純」というお話がありましたが、人によってはどんな事柄も、単に「自分のアクセサリー」にすることが動機になったりします。ハタから見て理解できないような事柄、たとえば大きな事件の関係者になったりすることや、暴露本を書くことも、彼女にとっては自らのルサンチマンを補填するこじゃれたアクセサリーなのでしょう。どんな人でにも多少の生き甲斐は必要なので、そこを否定はしませんが、自分で責任をとれる範囲でやるべき。死刑に賛成とか反対とか言う次元ではないです。今の時代は「ジャーナリスト」も「ノンフィクション作家」も自称するだけならタダなので、人生の中でこういう人と関わる機会がないように気をつけようと思いましした。

2009年10月21日 16時01分 [削除]

「SPA!」でのインタビューを読んでいると,増田“みっちゃん”の取材・執筆動機を一言にまとめると「売名行為」に尽きる,との印象を持ちました。取材も粗くて乱暴だし,まとめ方に工夫もひねりもない。ただ,「なぜ“実名”を明らかにして書くのか」という部分だけは,堅固に理論武装されているので,“入れ知恵”が疑われる部分です。

と書くと,めちゃ否定的にとられるかもしれませんが,どんな分野でも“売名行為”はけっして悪いことではありません。新規参入者の常套手段でしょう。誰かの“売名行為”に当事者と関わることだけは,私も注意深く避けていきたいと心に誓いました。

赤尾晃一 2009年10月21日 23時22分 [削除]

この本が発売されてから随分経つ気がします。古本屋に並んでいたこの本を手に取り、昨日読みました。
こういうことをしないとスクープとかコメントとかもらえないのかという取材方法に吐き気がしました。確かに編集者も人間です。でも、著者の判断は自分に対して相手がどうだったかという感情によって記事が左右されているように思います。伝えなくていいこと、言わなくてもいいことを「知る義務がある」を理由にF君に言っていると感じた内容も多々あります。記事中で弁護士事務所の男性が「わからない」という対応も確かに良くないと思いますが、これに対して「書きますよ」といった、ある種の脅し文句も感心しません。

かろやん 2011年02月07日 18時13分 [削除]

「知る権利」を振りかざして「あなたは取材に応じるのが当然だ」と半ば恫喝して取材を進めるのは,基本は新聞・テレビの組織ジャーナリズムの方法です。その場合も,取材者として傲慢だし,良い結果が得られるとは思いません。

フリーランスである増田さん(を利用した編集者)は本来,取材したい対象との間で人間としての信頼関係を築く営為が不可欠です。フリー記者の取材を受ける「義務」など,誰にも存在しないのですから。

信頼を築いた上で話してくれた中身を,ときには信頼を失う覚悟で「作品」にしなければならないのが,記者の「業(ごう)」と言えます。しかし,その過程も悩み苦しんだ結果でないと,取材相手も納得してくれません。

増田さんは執筆の際の苦悩も,そんなにうかがえませんしね。

赤尾晃一 2011年02月09日 12時07分 [削除]

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